東北大学編入 tyakanobuの編入体験記

東北大学工学部編入学試験体験記

令和2年度東北大学工学部化学・バイオ工学科編入学試験 解答

こんにちは~ 高専生ちゃかのぶです!

今回は東北大学工学部化学・バイオ工学科の専門科目の解説をしたいと思います

 

問題ⅠからⅣまで,二問を選択する形式ですが,僕は問題Ⅰ(無機,物理化学),問題Ⅱ(有機化学)を選択しました.なので,問題Ⅲ,Ⅳは解説しませんm(__)m.

 

前回の記事はこちら↓

tyakanobu.hatenablog.com

 

 

問題Ⅰ

問1

この年の問題Ⅰは一酸化窒素に関する問題です.一酸化窒素は揮発性有機化合物(VOC)と反応して光化学オキシダントの原因になる物質です.

 

問2

一酸化窒素のルイス構造は特殊です.窒素と酸素の価電子の総和が奇数になるので,不対電子があります.

 

不対電子を窒素,酸素のどちらに置くかですが,この場合は窒素に置きます.窒素の方が電気陰性度が小さいからです.

 

アトキンスに書いてあったのですが,反結合性軌道は電気陰性度の小さい原子の軌道の方が寄与が大きいので(そういう計算結果になる),反結合性軌道の電子は電気陰性度の小さい原子で見いだされる確率が高くなります.

 

問3

一酸化炭素の分子軌道エネルギー準位図です.NOの場合,準位図は酸素分子とほぼ同じものを使えます.

 

”ほぼ”というのは,問2で説明したように電気陰性度の小さい原子軌道はより反結合性軌道に寄与するので,窒素の原子軌道は酸素の原子軌道よりも少し上に書きます.

 

結合次数は2.5になります.つまり,NOの結合は二重結合でなければ三重結合でもないということです.

 

問4

標準反応エントロピー変化は,反応式の係数に気をつけて生成物の標準エントロピーから反応物の標準エントロピーを引きます.

 

問5

標準反応エンタルピーと温度が与えられているので,問4で求めた標準反応エントロピーを使って,\Delta G = \Delta H - T \Delta Sで標準反応ギブズエネルギーを計算します.

 

問6

ギブズエネルギー変化から平衡定数を求めるには,\Delta G = -RT \ln{K}を使います.

 

 \Delta Gが正なら非自発的,負なら自発的なので,一酸化窒素の生成反応は非自発的です.

 

問7

 \Delta G^\circとKの関係というのは,\Delta G = -RT \ln{K}のことです.

この式をギブズ-ヘルムホルツの式に代入してやります.

 

この年の共通化学に出てきたクラウジウス-クラペイロンの式で似たテクニックを使いましたが,\frac{d}{dx}(\frac{1}{x})=-\frac{1}{x^2}を変形した\frac{dx}{x^2}=-d(\frac{1}{x})を使うとファントホッフの式が得られます.

 

問8

ファントホッフの式を積分して平衡定数の温度依存性を表す式を導出します.

 

あとは数値を代入するだけでOKです!

 

問9

問8の結果から,温度を上げると平衡定数が大きくなっていくことが分かります.

 

平衡定数は反応物に対する生成物の比なので,平衡定数が大きくなるということは生成物が多くなることに対応します.

 

したがって,一酸化窒素の生成を抑制するには反応温度を下げることが必要になります.

 

ファントホッフの式から考察することも可能です.

 

この反応の標準反応エンタルピーは正なので,\frac{1}{T}に対して\ln{K}をプロットすると傾きが負の直線が得られることが分かります.

 

温度を上げると\frac{1}{T}は小さくなるので,この時\ln{K}は大きくなります.すなわち,Kは大きくなります.

 

問題Ⅱ

問1

与えられた名称の化合物を書く問題です.A,Bは問題ないと思いますが,Cはメソ化合物であることに注意です.

 

メソ化合物とは,不斉炭素を持っておきながら鏡像異性を生じない化合物のことです.

 

不斉炭素を持っていながら鏡像異性を生じないというのは,分子に対称面がある時に起こります.

 

2,4-ジクロロペンタンの場合,3位の炭素を通るように鏡を置くと元の構造と同じものが得られることから対称面が確認できます.

 

問2

芳香族に対する塩素,メトキシ基,ニトロ基,メチル基の効果について問われています.ニトロ基以外は電子供与基になります.

 

芳香族求電子置換反応とは,電子が不足している(電子を求めている)試薬が芳香族と起こす反応です.

 

試薬は電子を求めているので,芳香族側は電子をたくさん持っているほど反応を起こしやすくなります

 

また,オルト-パラ配向性は電子供与基が生じさせる性質です.ニトロ基などの電子求引基はメタ配向性を生じさせます.

 

酸の強さについてですが,酸に対する共役塩基の安定性を考察することで酸の強さを見積もることが可能です.

 

共役塩基が安定なほど,その酸は強いと言えます.

 

芳香族系の酸の場合,置換基上の負電荷を芳香環に分散させることで安定化できます.そのためには電子求引基を芳香環に導入し芳香環の電子密度を下げます.

 

したがって,安息香酸に導入することで酸性度を高くすることができるのはニトロ基しかありません.

 

問3(a)

第1級ハロゲン化アルキルとアルコキシドの反応はほぼE2反応ですが,Sn2反応が全く起きないわけではありません

 

まず,E2反応とは中間体を経由せず水素の引き抜き,ハロゲンの脱離と二重結合の生成が同時に起こる反応です.

 

Sn2反応とは中間体を経由せずハロゲンと求核試薬の置換が同時に起こる反応です.

 

立体的なかさ高さの影響を受けやすいのはSn2反応です.求核試薬が置換反応を起こすにはハロゲンの結合した炭素に近づかなければならないからです.

 

逆に,E2反応では求核試薬は水素を引き抜くだけなので立体的な邪魔を受けにくいです.

 

次に使用するアルコキシドに注目してみると,tert-ブトキシドとナトリウムエトキシドとではtert-ブトキシドの方が圧倒的にかさ高いアルコキシドであることが分かります.

 

したがってtert-ブトキシドを使うとSn2反応が起こりにくくなりE2反応がより優勢になります.

 

問3(b)

ワーグナー・メーヤワイン転移と呼ばれる反応が起こります.

 

より安定な第3級カルボカチオンになるべくメチル基のたくさんある方からメチル基が移動してくるというわけです.

 

第4級の炭素の隣の炭素にヒドロキシ基など脱離基があるような化合物はワーグナー・メーヤワイン転移が起きやすいです.

 

問4

クロム酸を使うとアルコールは一気にカルボン酸まで酸化されますが,クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)はアルデヒドで酸化を止めることができます

 

有名な試薬です.

 

問5(a)

与えられた分子式と実験条件から構造を推定する問題です.この手の問題では何よりもまず不飽和度を計算します.

 

不飽和度とは二重結合または環の数を表すもので,炭素と水素の数から計算できます.

 

素数をnとしたとき,水素が2n+2個なら不飽和度0(飽和),2nなら不飽和度1,2n-2なら不飽和度2になります.アルカン,アルケン,アルキンの関係と同じ感じです.

 

この問の場合,C3H6Oなので不飽和度1で二重結合または環が1個あります.

 

したがって,ケトン・アルデヒド・不飽和アルコール・環状アルコール,オキシラン構造を持つ化合物のいずれかになります.

 

どの実験条件から考えても良いです.ドライブの解答は一例です.

 

一番最初の条件は水素結合を持つ化合物を意味しています.つまり,アルコールです.

 

二番目の条件は構造から水素化した後の生成物を推定します.

 

三番目はアルドール反応のことで,アルデヒドかケトンであることを意味します.

 

四番目は不斉炭素を持つ構造を選ぶだけです.(R)体なので気をつけてください.

 

問5(b)

鏡像異性体の混合物の旋光度を求める問題です.このような問題に出くわしたら,まずはエナンチオマー(enantiomer)過剰率(e.e.)を求めることを優先します.

 

R,S体の量をR,Sで表すとエナンチオマー過剰率(R体が多い場合)は

           \frac{R-S}{R+S}×100

で計算できます.

 

もう一つ重要なことは,光学的に純粋な化合物の旋光度にエナンチオマー過剰率をかけると,その鏡像異性体の混合物の旋光度が分かります

 

例えば純粋な時に+100°の旋光度を示す化合物が,その鏡像異性体と混合されているとします.もしもエナンチオマー過剰率が50%e.e.なら,混合物の旋光度は50°になります.

 

問題に戻りますと,化合物Iとその鏡像異性体が重量比4:1で混合されているので,エナンチオマー過剰率は

           \frac{4-1}{4+1}×100 = 60%e.e.

です.これを化合物Iの旋光度,+10°にかけてやると,求める旋光度は6.0°になります.

 

問5(c)

グリニャール試薬のMgが結合した炭素は,Mgから強く電子を供与されて少し負電荷を帯びています(δ-).このため,グリニャール試薬は強い求核試薬です.

 

一方,カルボニル炭素は酸素に強く電子を引っ張られているので少し正電荷を帯びています(δ+).

 

求核試薬であるグリニャール試薬と,求電子試薬であるカルボニル化合物は反応してアルコールを与えます.

 

また,オキシランの炭素も酸素に電子を引っ張られているので求電子性を持ちます.

オキシランは炭素数を2個増やしたアルコールを合成するのに便利な試薬です.

 

問5(d)

化合物Gと化合物Iの生成物が少しやっかいです.

 

化合物Gの反応生成物はラセミ体になります.これはアルデヒドの立体的な特徴を抑えておく必要があります.

 

アルデヒド基の炭素はsp2混成しています.sp2混成軌道は平面三角形状に伸びているので,これと結合する酸素,水素,α炭素は全て同一平面内にあります.

 

平面状構造のものに試薬が付加することによって生じる化合物が不斉炭素を持つならば,生成物はラセミ体になります.

 

化合物Iとグリニャール試薬との反応はいわゆるSn2反応です.

 

Sn2反応は立体障害に敏感なので,メチル基に置換されていない炭素にグリニャール試薬が付加します.

 

まとめ

今回は化学・バイオ工学科の問題の解説をしてみました.次回からは平成31年度の問題の解説をしていきたいと思います!

最後まで見ていただきありがとうございました!!