東北大学編入 tyakanobuの編入体験記

東北大学工学部編入学試験体験記

平成30年度東北大学工学部編入学試験化学解答

こんにちは!高専生ちゃかのぶです.

今回は平成30年の化学の解説をしたいと思います.

 

前回はこちら↓

tyakanobu.hatenablog.com

 

 

問題Ⅰ

問1

平成30年度の問題Ⅰは化学熱力学でした.化学平衡に関する重要な式の導出になります.

 

化学熱力学を全く勉強したことのない方にとってはかなり鬼門のように見えますが,暗記が必要なのは(エ)のみです.(ギブズエネルギー変化が負である反応は自発的)

 

まず反応進行度ですが,その名の通りどのくらい反応が進行したかを表す量です.

 

イメージとしては,正反応が1回進むとか,2回進むとかそんなところです.

 

マッカーリ・サイモン物理化学には反応進行度に関する記述が少しあるみたいなので,興味のある方は図書館に行ってみてください!

 

実際に問題Ⅰの式(1)を見てみると,例えば物質Aの物質量変化dn_Aは反応進行度を用いてdn_A = -2d\xiと表されます.正反応が1回進むと物質Aが2 mol減るというイメージです.

 

式(2)はdnに式(1)を代入するだけです.

 

問題の(エ)ですが結論から言うと,一定温度,一定圧力下で反応が自発的に進行する場合,ギブズエネルギー変化は負になります

 

これは熱力学第二法則から導かれる結論で,ギブズエネルギーに関する最重要項目の一つです.

 

物理化学系の参考書(アトキンス物理化学,マッカーリ.サイモン物理化学など)に必ず載っているので,時間があれば見てみてください!

 

時間の無い方向けに,ちょっとだけ解説しようと思います.

 

熱力学第二法則には色々な表現方法がありますが,その一つが

「孤立系のエントロピーは増加する傾向にある」

です.こちらのページに詳しく書かれています.

 

孤立系とは注目している系(フラスコの中の反応溶液など)と外界(宇宙)を合わせた系であることに注意します.

 

ある反応を温度一定,圧力一定の条件下で行う状況を考えます.上記の孤立系のエントロピー変化を式に表してみると

\Delta S_{total} = \Delta S - \frac{\Delta H}{T}

となります.\Delta S_{total} は上記の孤立系のエントロピー変化,\Delta S は反応溶液のエントロピー変化,\Delta Hは反応溶液のエンタルピー変化です.

 

-\frac{\Delta H}{T}エントロピーの定義式S=\frac{Q}{T}からきています.もし発熱反応なら\Delta H \lt 0なので外界に正のエントロピー変化をもたらします.

 

この反応が自発的なら,熱力学第二法則より\Delta S_{total} \gt 0なので

\Delta S - \frac{\Delta H}{T} \gt 0

T\Delta S - \Delta H \gt 0

となります.

 

つまり,温度一定・圧力一定であれば左辺の量が常に正になるということです.

 

ここで,ギブズエネルギーG = H - TSを定義します.そうすると

\Delta G = \Delta H - (T\Delta S + S\Delta T) = \Delta H -T\Delta S(温度一定)なので

 

T\Delta S - \Delta H \gt 0より - \Delta G \gt 0

したがって\Delta G \lt 0が温度・圧力一定の下での自発反応について成立します.

 

なぜギブズエネルギーをG=H-TSで定義するのかですが,反応が進むには何らかの量が減るというイメージから来ているとかなんとかと聞いたことがあります(本当かどうかは分かりません(笑))

 

式(5)は式(3)に化学ポテンシャルの式を代入して整理するだけです.

 

問2

RTlog_e K = -\Delta_r GをK=の形に変形し,値を代入するだけでOKです.

 

問3

高校化学でも出てくるルシャトリエの原理です.

 

アンモニアの合成反応の場合,反応式の左辺と右辺で気体粒子数が変化していることに注目します.

 

問題Ⅱ

ナトリウム化合物の話になります.問題Ⅱは解説するべき箇所が無いため省略させていただきますm(__)m.

 

問題Ⅲ

問1(a)

二重結合が末端にあるもの,二重結合が内部にあるものに大別されます.

 

二重結合が内部にあるものですが,僕はシス,トランスに引っ張られ過ぎて赤で描いた構造をすっかり忘れてしまいました(笑)

 

問1(b)

シストランス異性体の融点の特徴についてです.

 

一般に,直線性の高い構造を持つ化合物の方が融点,沸点は高いです.

 

 

トランス体はシス体に比べて分子間で重なりにくい(炭素や水素に比べてかなり大きい塩素が邪魔をする)ため,シス体よりもトランス体の方が融点が低くなります.

 

問2

L-乳酸の立体構造を書けとのことですが,L-乳酸=(S)-2-ヒドロキシプロパン酸であること,さらに立体構造の例が示されていることから化学系の方なら楽勝だと思います.

 

ですが非化学系の方の中には分からない方もいるかと思います.

 

まず立体配置(R体,S体)の決め方ですが,ここで説明するよりも図付きのwebページや本を見た方が分かりやすいと思うので,”立体配置 決め方”でググってみてください.

 

また,マクマリー有機化学など有機化学の専門書にも必ず載っているので図書館で探してみてください!

 

R,S表記とD,L表記はどちらも立体配置を表すための記号です.決め方はどちらも同じなので,R体であればD体,S体であればL体でもあります(一部例外はあるようです.wikipedia参照

 

D,L表記は特にアミノ酸に用いられます.これには歴史的背景があるようで,調べてみると面白いですよ!

 

問3

有機合成に関する問題です.

 

A:

リーデル・クラフツ反応と言います.芳香族求電子置換反応の一種です.

 

塩化アルミニウムは強いルイス酸(酸化剤)なので,クロロアルカンから塩素を引き抜いてカルボカチオンを生じます.

 

クロロメタンと塩化アルミニウムが反応するとCH_3^+が生じます.

 

これは強い求電子性を持っているので,電子をたくさん持っているベンゼンと反応する,というわけです.

 

B:

水素が結合したベンジル位の過マンガン酸酸化です.

 

反応機構は見たことがあるのですが,覚えてもあまり意味ないと思いますし,よく分かりませんでした(笑)

 

一つ注意なのですが,ベンジル位に水素が結合していないと過マンガン酸酸化は進みません

 

C:

アルコールとアルデヒド,カルボン酸の間の関係は絶対におさえておくべきです.

 

アルコールを酸化するとアルデヒドに,さらに酸化するとカルボン酸になります

 

マンガン酸はかなり強い酸化剤なので,トルエンを一気に安息香酸まで酸化します.

 

もちろん,ベンズアルデヒドを過マンガン酸で酸化しても安息香酸が得られます.

 

実はアルコールをアルデヒドまでの酸化で止める方法もあります.PCC(クロロクロム酸ピリジニウム)やペルヨージナンを用います.

 

まとめ

平成30年の化学を解説してみました.平成30年の化学は問題Ⅰ以外はそんなに難しくないかなと思います.

 

このテストに限らず,まずはテスト全体を見通して,自分のできそうなところから解いていくと時間を有効に使えますし,高得点につながると思います!

最後まで見ていただきありがとうございました!