東北大学編入 tyakanobuの編入体験記

東北大学工学部編入学試験体験記

平成31年度東北大学工学部化学・バイオ工学科編入学試験解答

こんにちは!高専生ちゃかのぶです.

 

今回は平成31年の東北大化学・バイオ工学科編入学試験の解答を解説していきたいと思います.

 

前回はこちら↓

tyakanobu.hatenablog.com

 

 

問題Ⅰ

問1

ここで与えられているサイクルというのはカルノーサイクルのことです.

 

カルノーサイクルのpV図は必ずカルノーサイクルと一緒に教わるので,図自体を覚えている方も多いと思います.即答できるかもしれません.

 

図を覚えていなくても各過程での圧力と体積の関係が分かっていれば,正しい図を選ぶことができると思います.

 

まず等温過程ですが,読んで字のごとく\Delta T = 0です.

 

次に理想気体の状態方程式の両辺の\Deltaを取ると

\Delta(PV) = nR\Delta T

となりますが,\Delta T = 0なので

\Delta(PV) = 0

になります.これはつまりPV = c(一定)ですから,PはVに反比例します.等温過程におけるPV図は反比例のグラフになります.

 

断熱過程のPV図ですが,これはポアソンの法則PV^\gamma = c(一定)から考察します.

 

断熱過程のPV図も反比例のグラフに似たグラフになりますが,勾配が等温過程よりも急です.

 

これは\gamma = \frac{C_p}{C_v} \gt 1であり,単位温度変化当たりの圧力変化がより大きいためです.

 

問2

熱的平衡状態とは,熱源と熱源の間で熱の授受が無い状態のことです.

 

熱は温度差のある熱源間でやりとりされるので,熱的平衡状態は熱源間の温度差が0のの状態を意味します.

 

熱は高温熱源⇒低温熱源の方向にしか移動しない(熱力学第二法則)ので,熱源間に温度差があって熱が移動してしまうと元の状態に戻りません.

 

したがって,準静的(可逆的)であるには,熱源間に温度差が無い状態である必要があります(実際には摩擦など不可逆過程が絶対に起こるので準静的=仮想的なもの).

 

問3

断熱過程における熱力学第一法則,関係式dU=nC_VdT,マイヤーの関係式R=C_P-C_Vを用います.

 

T_1V_2^{\gamma-1}=T_2V_3^{\gammma-1}ポアソンの法則と言います.ポアソンの法則の導出の仕方は次のようになります.

  1. 断熱過程における熱力学第一法則の式を立式
  2. 1の式とdU=nC_VdTをイコールで結ぶ
  3. 積分する
  4. マイヤーの式を使ってRを消去し整理する

ポアソンの法則は断熱過程において一定になる量を意味しています.

 

問4

過程④におけるポアソンの法則を立式し,問3で導出したポアソンの法則を使って温度を消去します.

 

問5

等温過程では仕事の定義式から,断熱過程では熱力学第一法則から仕事を算出します.

 

膨張しているのか,収縮しているのかで仕事の符号が変わるので気をつけて計算してください!

問6

内部エネルギーは温度にのみ依存します.したがって温度が変化しない等温過程では内部エネルギーは変化しません

 

また,断熱過程では文字通り熱が授受されないので受け取る熱はゼロです.

 

問7

PV図で囲まれた部分が系が外部に対してした仕事になります.

 

これは仕事が\int P dVで表されることから明らかです.

 

問8

問題文にしたがって,問5で求めた仕事を,系が受け取った熱で割ってやると有名なカルノーサイクルの熱効率を表す式が得られます.

 

問9

エントロピーの定義式[S=\frac{Q}{T}]から各過程でのエントロピー変化がどうなるかを考えます.

 

考えるといっても断熱過程では授受される熱がゼロなので,当然エントロピー変化もゼロです.

 

等温過程においては系が受け取った熱を絶対温度で割ることになりますが,結局定数になります.

 

以上のことから,温度をエントロピーに対してプロットすると解答のような長方形になります.

 

問10

試しに問9で書いた図の面積を考えてみると,丁度問5で求めた仕事の総和に等しいことが分かります.つまり,TS図の面積は仕事に等しいです.

 

問11

カルノーサイクルは熱の一部を仕事に変換するものです.摩擦などによって受け取った熱が逃げてしまったら,当然使える熱が少なくなって仕事も少なくなってしまいます.

 

問題Ⅱ

問1

環状アルカンのハロゲン置換体の異性体書き出しになります.

 

この問の場合二種類のハロゲンにより置換されているので,シス体が二種類(ジアステレオマー)あります(解答が間違っていました,修正しました).

 

一方,トランス体の方は鏡像異性体が存在します.

 

問2(a)

フェノールからサリチル酸を合成するには,工業的にはコルベ・シュミット反応を用います.

 

リーデルクラフツアルキル化でオルト位をメチル化したあと,過マンガン酸で酸化するという経路も考えられますが,おそらく収率が悪いかなと思います.

 

フェノールをナトリウムフェノキシドに変換し,高温高圧で二酸化炭素を反応させるとオルト位にカルボキシ基が導入されます.

 

酸処理すると,サリチル酸が得られます.

 

問2(b)

化合物の酸性度の強弱を議論したい場合は,共役塩基の安定度を考えます

 

サリチル酸は他の構造異性体よりも遥かに酸性度が高いのですが,それは分子内水素結合を形成できるためです.

 

ヒドロキシ基がカルボキシ基に近い方が当然水素結合を作りやすいので,共役塩基がより安定になります.

 

問3

与えられた分子式を見ると,化合物Dは飽和であることが分かります.

 

Naと反応すると水素を発生し,クロム酸酸化するとカルボン酸を生じることから化合物Dは第一級アルコールであることは明らかです.

 

この場合第一級アルコールは2種類ありますが,両方書き出して濃硫酸で脱水し,過マンガン酸酸化させてみて問題文と一致する方を選ぶのが一番早いかと思います.

 

問4

エステルやニトリルは覚える反応が多くて困るのですが,この問に出てくる有名な反応に共通するのは,強力な求核剤が反応に関与しているということです.

 

水素化リチウムアルミニウムはヒドリドイオンH^-を放出できる試薬で,強力な還元剤です.

 

グリニャール試薬はマグネシウムの結合した炭素が強く負の電荷を帯びているので,これも協力な求核剤になります.

 

問5

オルトパラ配向,メタ配向を覚えていれば即答です!

 

化合物Kはニトロ基を先に導入してしまうと,ニトロ基がメタ配向性なので塩素がオルト位に入りません.

 

一方化合物Lは臭素を先に導入してしまうと,臭素がオルトパラ配向性なのでメタ位にアルキル基が入りません.このため,先にアルキル基を導入して過マンガン酸酸化してから臭素を導入します.

 

まとめ

解説の公開がかなり遅れてしまいました...

 

かなり忙しいのですが,隙間時間を使って頑張っていきたいと思います...!